大判例

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大阪高等裁判所 昭和41年(う)851号 判決

判決理由〔抄録〕

しかしながら、原審において取り調べた証拠を精査し、原判決挙示の証拠を総合すれば、原判示事実は被告人の業務上過失の点を含めて十分これを認めることができる。すなわち右証拠によると、被告人は原判示事故現場を西進中逆の方向に転回(Uターン)しようとしたが、このような場合自動車運転者として原判示の如き注意義務のあることは勿論であるが、殊に対向車道に車両のあることを認めたときは、当時夜間で零時に近く、而も雨天で、付近には照明設備もない為極めて暗く見透し困難な状況下にあったのであるから、対向車の前照灯のみによってはこれとの距離、その速度を正確に認識することは困難であることを慮り、そのことに慎重な考慮を払い安全を確認した上転回を開始すべきことはいうをまたないところである。しかるに被告人は右の注意義務を怠り、前方約七三メートルの対向車道を東進して来る香川正明運転の軽四輪貨物自動車及びこれに続く石戸二郎運転の自動車一台があることを認めながら、右各対向車との距離その速度に対する慎重な配慮を欠き、容易にこれらが到達するより先に転回できるものと軽信し、漫然道路の左側に寄って時速約一〇キロメートル位に減速して右廻りに転回を開始した為、車首が未だ道路中央線を約二、四メートルを超え北向(直角)きの状態にあるとき、高速度(時速約五〇キロメートル前後)で東進して来た右香川運転の対向車前部を自車左前部に激突させ、その結果原判示の如く二名を死亡、三名に重傷を負わせる事故を惹起するに至ったことが認められる。所論は、被告人は転回に際しては自動車運転者として守るべき注意義務を守り、その際における対向車との距離、同道路における制限速度(時速四〇キロメートル)から考え、対向車も制限速度で進行しておりこれより先に十分転回し切れるものと判断して転回を開始したもので、その判断には責めらるべき過失はない旨主張するけれども、夜間で付近に照明設備もなく、而も雨天で見透し困難の状況下において、さきに説示した如く対向車との間隔、距離その速度を正確に認識することは経験則上困難であるばかりでなく、すべての自動車が制限速度にしたがって進行しているものとは考えられず、むしろ夜間交通量もさほどないときは制限速度を無視して突走る車両の多いことは公知の事実であり、そのことは現に被告人自身も転回直前時速五、六〇キロメートルで進行し他車を追越している(芝田魏の司法警察員に対する供述調書)ことからも明らかであるから、転回に際しては特にこれらのことに十分考慮を払うべきは当然のことである。したがって当時彼我の距離が約七三メートルあると考えたとしてもこれが果して正確であるかどうか疑わしく、又それだけの距離があったとしてもそれは転回を開始しようとした地点との距離であり、その後徐行して対向車の方に向い右に大きく弧を描いて転回するうちに彼我の距離は急速に縮まることを考えると、被告人がそれだけ簡単に転回し切れると判断したことは極めて軽率であるといわざるを得ない。現に石田二郎立会の下に行われた実況見分の結果によると、本件の対向車との衝突箇所は道路中央線より約二、四メートル右に超えた箇所で、而も被告人の自動車がなお真北を向いてなお進行している状態にあったときであるから、当時の彼我の速度(被告人は時速約一〇キロメートルとして秒速二、七メートル対向車は時速約五〇キロメートルとして秒速一三、八メートル)を考えると、被告人が道路中央線を超える直前にすでに対向車はその左斜め約一二メートルの至近距離に迫っていたものといわざるを得ないのである。それにも拘わらず被告人はなお転回を続けようとして衝突したものというのほかなく、このことからも被告人の対向車に対する注視の欠如がうかがわれるのであって、所論の被告人の判断に過誤のあったことは明白であり所論はとうてい採るを得ない。されば本件事故は対向車にも過失がないとはいえないけれども、被告人の前示注意義務を怠った過失がより大きな原因をなしているものというべく、所論の如く対向車の一方的過失のみに因るものとは認められない。その他所論は数値を挙げて被告人の無過失であることを縷述するけれども誤った判断を前提とするものであり、又本件衝突の態様についての原判示を論難するけれどもそれは単なる表現の相違に過ぎず、いずれも採るを得ない。要するに原判決には所論の如く事実の誤認を疑わせる廉はない。論旨は理由がない。

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